Excerpt for アメリカン・スフィンクス by William Kuko, available in its entirety at Smashwords



アメリカン

スフィンクス

猫時代

ウィリアム空狐著


Two Moth Press (Smashwords edition)

Copyright 2009 William Kuko

all rights reserved

Smashwords Edition, License Notes

This ebook is licensed for your personal enjoyment only. This ebook may not be re-sold or given

away to other people. If you would like to share this book with another person, please purchase

an additional copy for each person. If you’re reading this book and did not purchase it, or it was

not purchased for your use only, then please return to Smashwords.com and purchase your own

copy. Thank you for respecting the hard work of this author.


謝辞


最初に、最も素晴らしい編集者テッド・カラニコラス氏に出会えたことを感謝させていただきたい。私が自分の道を見つけるのに力添えをしてくださった存命中の最高の詩人ジョン・キャンピオン氏、そしてこの本のために絵を描きページを飾ってくださったネイサン・ウッド氏にも感謝の念を表明しなくてはならない。そしてケビン・ライアン氏には技術的サポート全般や友人として力添えをしていただいた。ウィリアム・キーソル氏は私の相談に乗り力になってくださった。そして最後に私の最愛のティンクに心より感謝する。


アメリカン・スフィンクス

オフィシャルサイト

www.americansphinx.com


公案

五つの部分からなる前世を生きたものとは何か。



丘の上

木の間を通って

静かにゆっくりと

風が吹く

大きな海を越える

小さな海を越える。

風が草の上を駆け抜け

優しく

柔らかく

山々が話しかけ

山々が話し合う。

風が部族会議を開き

法廷が開かれている。

巨石たちは耳を傾け

木はしっかりと根を張っている。

大嵐で暗雲の流れは速く

日食で空は暗い。

Foreign girl

夜の思考と

夜の歓喜に

捕われ

夢から

覚めることができないでいる。

Cat

欲しい

願望が生まれる。

夢が続く。

何度も

眠れない夜が続き

休めない。

寝返りを打ち

枕をひっくり返し

カバーを蹴り飛ばしても

望みは消えない。

柔らかくてかわいい

cat

欲しい。

探す。

見つけ出す。

自分に合った品種

自分に合ったCat

自分が丁度欲しかったものが

見つかった――

毛の塊

毛玉

アメリカン・メインクーンと呼ばれている。


伝説が語る――

暗い

嵐の

雲で覆われた

怒りを誘発するような

雷の音が続く

稲妻が走り

雪が毛布のように辺りを覆う

風は……

風は強かった……

唸っている

轟々と唸っている

ヒューと音がするたびに

気温は

落ちる

氷点

氷の上に

氷が積み重なる。

雲の間から

「月」が覗き

瞥見し

うっとりするような輝きで

天の光を降らせる。

大山猫は謎のゲームに

足を踏み入れた。

あの奇術師の狸とともに。

対決

踊り

―― あの恐ろしいセイント・ヴィテュスのように。

どちらが勝ったのでも

負けたのでもなく

結果は引き分けだった――

二匹の強豪の中で

残ったのは

アメリカン・メンクーンだけだった――

大山猫と狸の混血種

100%アメリカ生まれ。

女の子が選んだのはこれだった

この小さな「毛玉」を

自分のCatとして選んだ。

名前を付けなければならなかった。

名前は一番大切だからだ。

強い名前が必要だと思った。

威厳のある名前

王にふさわしい名前

知盛……

その名前は

夢見の時に唇からこぼれた

まるで懸命に夜の荒海に

浮かぼうとしているかのように

寝返りを打ちながら。


共同生活。

新しい生活と

お互いの領土について

取り決めた。

問題

悪戯

散らかし。

Foreign girlはこれほど

kitten

聞き分けがなく

大変だとは思わなかった。

知盛は

全てを

「自分の物」だと

認識した。

そして

気に入らない物全て

破壊した。

あることを

思いついた。

女性の心に

ふと考えがよぎった――

水をかけてやろう

悪いことをしたら

水を浴びせてやろう。

植物噴霧器を

使った

植物散水器を

使用した

植物に命を与えるものを

利用した……

何も起こらなかった。

効果はなかった。

何も。

知盛は勇敢にも

石のように座り(動じず)

これを物ともしなかった。

顔に水がかかると

はしゃぎ回り

ゆっくりと

毛を濡らして

まとめ

遊んだ。

目を閉じて

水が

上へ

そして

後ろへ

方向を変えるに従って

まるでレーダーが

生命反応を探しているかのように

顔の向きを変えた。

勝利した。

勝利は

「彼の物」だ。

残念なことに

彼女の所有物は全て

「彼の」獲物となった。

コード、ワイヤー、紙、衣類

おもちゃ全て

遊べそうな物全て

面白そうな物全て。

植物でさえも

ひとたまりもなく

葉は全部あっという間に消え

植物は全て

横に

押し倒された。

彼の悪戯には困った。

問題は

増すばかり

酷くなるばかり。

Foreign girl

kittenの成長に気づいた。

尻尾も大きくなった。

少しずつ

ゆっくりと

途中までしか成長せず

普通の長さの三分の一で

草の剣を思い起こさせるような

菖蒲に似た

短剣――

Sword of Cloud over Orochi's Head


体――Shrine of the Holy Sword


毛並みも

変わった。

変化

変形

最初は銀と黒で

目立った柄は見当たらなかった。

しかし成長し

体が大きくなるにつれ

豊かで色鮮やかな模様が

見られるようになった――

毛は蟹の甲羅のようだった。

或は、まるで何本も矢が刺さっているかのように見えた。

そして

十分成長し

完全体になり

なるべき大きさになったが

尻尾はまだ少しだけ

成長しないままだった。

しかし毛には

とてもはっきりとした模様が浮かんだ――

二本の前足の間の

丁度胸の中心部に

奇妙な形の目が現れ

他を見つめ

自身を見詰めた。

いや

いや、目ではない

いや、むしろ二匹の蝶だ

いや、おそらく曾て「光」を知っていた時は

蝶だったのだろう。

だが、今は姿を変えた

蛾(夜行性生物)に変わった。

一匹の上にもう一匹

まるで一匹の蛾が鏡を見つめ

もう一匹が見つめ返しているかのように。

二つの上下対称の形は

座標原点から同じ距離に位置する。

この毛

二匹の蛾の

目の所に生えている毛は

濃い青みがかった色で

少し紫色だったが

Foreign girlにははっきりとは分からなかった。

彼女のcatに相応しい

象徴が

必要だった。

海辺の

灯台から

光線のような

かすかな光が射し

彼女を正しい方向に

導いた。

後ろの隠れた所に

海藻のような物に

覆われた部屋があり

三秒毎に点滅する

黄色っぽい光の下に

必需品が置かれていた。

首輪――

赤みがかった深紫色で

金色の文字が全体に書かれている――

閃光が暗闇から発せられた。

名前を表すものが

首輪にしっかりと固定されている。

難破船の乗組員にとって硬岩がそうであるように

碇が

舟を支える

無敵のcatにとっての

昔年の岩として。

知盛は

この首輪と碇を

付けられたとき

抵抗しなかった。

彼女は

首輪を身につけた知盛を見て

何て気高く威厳に満ちているのだろうと

感心した。

知盛は

強い意志を持っていた。

「自分」を象徴する物を

誇りに思った。

この最初の所有物を得ることにより

自我が生まれ

成長した。

それからというもの

夜が来るたびに

悪戯が多くなり

悪戯が増えていった――

彼が勝ち取った物の数々――

つまり

戦利品である

Severed Head

鳥、蛇、鼠、大鼠、リス

兎、蜘蛛数匹、虫各種。

Foreign girlは恐れた。

Foreign girlは不安になった。

知盛は勝ち誇り

戦利品を

自分の城に納めた。

その城は彼女が可愛いと思って

知盛に買ったものだった。


満月のある夜

ふとForeign girlが窓から地面を見下ろすと

そこには複数の影が集まっており

形を成していた。

何とそこには彼女のcatがいた――

知盛は勇ましい姿で立っていた。

(頭がVの形をした)

驚くほど巨大な蛇が

舌を動かし

感覚を尖らせ

状況を判断した。

それから

どぐろを巻いて攻撃体制に入り

「彼」の前で

動かずにいた。

知盛の左には

(斑点のある)巨大な蛙

右には

わりと大きな蛞蝓が

構えた。

戦場では

知盛が中心に位置し

その周りを敵が三角形を描くように囲んでいた。

知盛は恐れてはならないことを分かっていた。

たとえ恐れていても

それを見せず

勇敢な騎士のように一歩も引かなかった。

敵が包囲する。

敵に包囲される。

だが、二匹(知盛と大蛇)は

じっと座っている

静かに座っている。

かすかな呼吸

かすかな息

悟りを開き

集中した

どちらも怯まず

何も動かない

瞬き

首が飛んだ。

大蛇の体から血が吹き出た。

大蛇の体から川が溢れた。

左右

後ろに

体がスプリンクラーのように

ぴくぴく動いた。

(シュー、シュー、シュー、シュー)

蛙は

怖れ

逃げようと

試みたが

失敗に終わった。

蛇の頭が

地に着くまでの

短い間

知盛は蛙の上に股がり

全ての体重を

乗せた。

内蔵は潰れて

色んな方向に飛び散った。

噛み砕く音は

吐き気を覚えるほど最高だ。

首がもう一つ増えた。

蛙の首は

落ちた。

知盛は

顔から

血を滴らせ

蛞蝓が

そっと

逃げようとするのを

ゆっくりと

見た。

蛞蝓の前に移動するのは

容易だった。

たった一度

引っかくだけで

十分だった。

蛞蝓の体は消え

首だけが残り

これも自分の物にした。

食いあさり

屠り

この三匹を

戦利品以外は

全て残さずに

食べ尽くし

力を得た。

暗闇の中

光が

射している。

月の

明かりで

際立った

影が

知盛の体にかかった。

犬。

猫。

いや違う。

老人コヨーテだった。

知盛は(ただ)待っていた。

老人コヨーテが

ずっとそこにいるのを

まるで分かっているかのように。

まるで分かっていたかのように。

Foreign girlは恐れた。

Foreign girlは怖れた。

恐怖で体が動かなかった。

Catはどうなってしまうのだろうか。

しかし

窓のふちから

覗いてみると

知盛が捕食者で

老人コヨーテが

獲物のように見えた。

知盛は

どの敵が

一番強いのか

そして

どの敵が

死ぬことになるのか

知りたがっているかのようだった。

老人コヨーテは

構えた。

老人コヨーテは

地面を這い

背中の毛を逆立てた。

歯が月の明かりに照らされ

かすかに光った。

知盛は

まだ

座ったままだ。

重く

深い

霧が

ゆっくりと近づき

二匹を覆い

戦いの場を囲み

Foreign girlの視界を遮った。

目が覚めた。

音で

起きた。

何か息苦しそうな音

何か口から吐き出すような音

何か胸が苦しそうな音――

気がつくと

自分の体は

窓のそばの床に横たわっていた。

知盛は?

隣で

吐いていた。

何か下に置かなければと

考える間もなく

液体

水っぽい物を

吐き出した。

茶色の毛

たくさんの

茶色の毛。

夜の出来事が

すぐに

明らかになった。

知盛は彼女をじっと見た。

自慢げに

勝ち誇って

見えた。

それから

その茶色っぽい物を

再度食し

再度消化し始めた。

敵を倒せば倒すほど

気性も荒くなり

悪戯もより頻繁になった。

仕付けが必要だった。

礼儀を教え込まなければならなかった。

叩くだけでは

言うことを聞かなかった。

怒り

頭に来て

罰を考えついた。

ちょうど浴びようと思っていた

シャワーだ。

体に必要な

洗浄だ。

知盛を浴室に入れ

恐怖で縮こまるのを待った。

恐れをなすのを待った。

シャワーカーテンを閉め

自分の体を洗い始めた。

しかし

驚くことに

髪を洗い

目をこすって

見てみると

知盛は勝手にシャワーの中に入り

濡れていた

ずぶ濡れになっていた。

知盛は

(シャワーの)パターンに従い

(シャワーの)流れに従い

顔を

こっちの方向

あっちの方向

あっちの方向

こっちの方向へと

動かした。

シャワーから水が噴き出した。

シャワーから水が出た。

Foreign girlの怒りは増した。

Foreign girlの怒りは爆発した。

知盛は水の中で座り

遊び

楽しみ

水を跳ね

喜んだ。

彼女はこれを

まるで人を馬鹿にしているような

まるで人をあざけ笑っているような

行為だと感じた。

態度だと感じた。

知盛を座らせた――

ぶるぶる震えさせることで

馬鹿にするのをやめさせようとした。

時間が経ち

魔法の時間が訪れ

寝ることにした。

知盛を乾かすのに

すぐに済む方法を選んだ……

ドライヤーだ。

知盛の天敵!

コイルから火花が散った

コイルに火がついた

電気の血管が

電気のズズズ……という音が

知盛の感覚を遮った。

知盛はライオンのように吠えたが

引きはしなかった――

一度も。

素早い攻撃で

力強い攻撃で

爪で

前足で

ドライヤーを叩き

敵を打ちのめした。

Why do you keep doing bad things?

静止

両者とも動かぬまま。

ズズズ……という音は続く。

Don't do bad things! You got it?

音が止んだ。

ドライヤーは止まった。

知盛の強さは変わらない。

それから

Foreign girlを睨みながら

ゆっくりと

自分の足を

舐める。

彼女は気にせず

自分の用事をする。

服を用意し

目覚まし時計をセットし

物を全部片付ける。

知盛は無視した。

知盛は無関心だった。

ついに彼女は疲れて

うとうとして

眠ってしまった。

柔らかい枕は

心地よい。

ベッドに吸い込まれる。

ベッドがまるで洞窟のよう。

一人になれる場所だ。

何か圧力を感じた。

さっと触れて

さっと通る……

空想の

空気だ。

息が

乱れる

息が

できない

気管が詰まり

息がしにくい――

混乱

一時的

少しの間だけだったが

目が覚め

怖くなり

驚いた。

頭は

頭蓋骨は

百万ポンドあり

動かすことができない

岩。

首の筋肉を

動かせない

首の筋肉は

張っている……

動かない

目は

開いているが

目の前は

真っ黒だ

石炭のように黒い。

鼻がかゆい

腕をバタバタと動かす。

永遠に続く夜の中

知盛は

スフィンクスのように

誇らしく

永遠に

彼女の顔の上に

座っている。

Hey! What the hell are you doing?

知盛は床に下りた。



波。

海岸。

砂はとても柔らかい

吸い込まれるよう

心地よい。

もっと多くの波が

もっと速く

もっと激しく

彼女の上に流れる

彼女は流される。

遠く

水平線を越えて

空――青い

赤くなる

紫色になる

黒くなる。

嵐が

来る

雲は速く動き

雲は燃えた後のように灰色だ。

波は荒い

波は暴力的だ

岸を打つ

彼女の肉を打つ

彼女の上に流れる

彼女は飲み込まれる。

もがき

じたばたし

(穏やかな)岸の上に留まろうとする

(心地よい)砂の上に留まろうとする。

だが

流されてしまった

海に吸い込まれる――

水は冷たい

水は冷えている

息をしようともがく

空気を吸おうともがく。

たくさん

顔のあるものが

彼女を囲む。

息ができない

息が詰まる――ゆっくりと。

いや

顔ではない。

いや

顔ではないだろう。

髑髏?

「髑髏」だ。

手を伸ばしてみる

手で確かめてみる

手探りする

感じる

触る……

硬い物

凸凹

顔はない

目はない

硬い物体

外殻があり

海のように

濡れている――

甲羅……

一つだけではない

沢山の……艦隊。

蟹だ!

周りにいっぱいいる

柔らかい肌に

繊細な肌に

爪が伸びる――

悲鳴

甲高い声

苦痛。


音――

蝉の鳴き声ような

いや

それほど美しくない

それほどロマンチックではない

何か人工的な

何か電気的な物――

目覚まし時計が

彼女の目を覚ます。

ベッドの上には

知盛が座って

じっと見ながら

様子を見ながら

待っていた。

彼女はcatを撫で

可愛がり

牛乳をボウル一杯

飲ませた。

美味しそうだったので

自分の分も用意した。

お気に入りのカップ――

緑色で

鳥と蔓が

描かれている

イタリア製のカップ。

そっとカップを置いた。

ソファーの肘掛けに

そっとカップを置いておいた――

誘惑

願望。

Foreign girlの心は彷徨った。

浮かれ気分になった。

何も考えていなかった

完全に

そのカップのことを

その中の欲望のことを

忘れていた。

機会を狙って

好機を狙って

知盛は見ている

知盛は待っている。

それから

日が沈んだ後

壊れた音

粉々に割れる音

液体が飛び散る音もした。

彼女は見た――

カップが割れて

ミルクがこぼれている。

そしてそれを床で知盛が舐めている。

かっとなる

怒りが増してゆく。

知盛の短い尻尾と

足を

つかんだ。

顔を床に押し付けた

顔を(こぼれた)牛乳に押し付けた。


Hey! What the hell did you do?

You Die!

Die!


殴り始める

殴りだす

歴史に残る

罰。

即座の

罰。

混乱が静まった後

罰を与えた後

Foreign girlは悪く思った――

罪悪感を覚えた。

この気持ちを何とかしようとした。

何かで償おうとした。

疲れが押し寄せてきて

眠気に襲われた。

頭が重くなった。

頭が大きく感じた。


枕のように柔らかいが

羽ではない……

また……

まただ。

嵐は既に来ている。

風は激しく唸っている。

太陽は出ていない

暗闇のみで

光はない。

囲まれた……

蟹(甲羅が髑髏の形をしている)

軍隊

そこら中にいる

全く

逃げられない

波が打つ

波がぶつかる

風がヒューヒュー唸る

いや

風はウーウー唸る

ウー ウー ウー

それともメーという音だろうか

メー メー メー

ガサガサ、シーという音もする。

一匹の蟹が彼女の髪をはさみで挟んだ。

もう一匹が

腕を挟んで

強く

閉じ

それから

巨大なはさみを持つ

三匹目がやってきて

横歩きをし

懸命に

一心に

一点を

見定める。

はさみが前から飛んできた

はさみがぶつかった――強く

Foreign girl

ベッドの外に

落ちた。

床で

苦しがった

背中を打ちうずくまり

背中を打ち身悶えした。

苦痛。

身を屈めた。

曲がった背中

筋肉が引きつっている

真っ直ぐにするのは

無理だ。

何日も

腰は

ひりひりした。

何日も

腰は

動かず

痛んだ。

気晴らしに

買い物でもと

思った。

カウベル(牛の首にぶら下げる鈴)――

古い光沢を失った銅――

カランと鳴るベル。

本当に牛はこんな物を付けていたのだろうか。

彼女はふと考えた。

古いベルを

すぐに買った。

コーヒーを飲み

新聞を読んだ後

気分は良くなり

心も正常に戻ったので

家に帰った。

ドアを

開けると

恐ろしいものが視界に入った

酷く乱雑な光景を目にし

目の前が真っ暗になった。

アパートが

住居が

神聖な場所が

全て

破壊されている。

Motherの写真が

裏返しになっており

写真立ては粉々だ。

沢山の噛んでできた穴

沢山の噛んだ跡がある。


Why did you do it?

Do you have to make me mad?

How dare you make me mad,

You Punk!


知盛は走った

知盛は逃げた

無駄

隠れても

激怒した彼女には

どこにいるか分かっていた。

粉々になった写真立てで

殴った

仕付けを

教えた。


Stupid

Die


彼女の目は涙でいっぱいになり

涙が床にこぼれた

鳴き声が夜の空気を満たした

鳴き声が狭い空間を満たした。

泣きじゃくった

夜の静けさが訪れるまで。

再び

海岸

再び

再び

蟹が

彼女を包み込んだ

まだ

彼女を包み込んでいる。

嵐は荒れ狂う

嵐は激しい。

蟹は辛抱強い

蟹は攻撃の準備をしている。

風はムァーと唸る

(ムァー ムァー ムァー)

風はメーと唸る

(メー メー メー)

軍隊が整列する

動く

知盛のBlack Ship艦隊が

位置に着く。

彼女の体

おもちゃ

彼女の体

取り合いだ。

彼女はたじろいだ

彼女はひるんだ

だが

痛みは止まらなかった

いや

風のメーという音が

止むまで。

風のムァーという音が

止むまで。

知盛は座って

ゴロゴロと喉を鳴らし

足を

動かし

彼女がかぶっている

布団の上で足踏みした。

何日も動けない

起き上がることもできない

横になり

苦しみ

後悔した。

変な動きで

変な格好で

便所に

行った

台所に

行った。

行く途中

転んだ

滑った

カウベルに

つまずいた。

あの古い永遠なる

銅の

メカニズム。

なぜだか分からないが

その素朴さが

彼女を喜ばせ

気を楽にさせた。

部屋に戻った

神聖な場所に戻った

ベルを

ベッドの横の

テーブルの上座に

祭った。

意識

意識は

遠くなる。

目の前は暗くなり

目の幕が閉じた。

海岸はない

砂はない

あるのは

カバー

マットレスだけだ。

雑音が聞こえた――

深い闇に包まれた不吉な予感――

岸に打ち寄せる

波のように

リズムは一定

或は

深い海の中を航海する

船のようだ。

雑音の源で

知盛が

目を凝らして

(こっちを)睨みつけ

座っていた。

Foreign girlの息は乱れる

Foreign girlの息は一定になった

Foreign girlの息は拍子に従う

Foreign girlの息はリズムに従う

知盛の足は

上下に動き続けた。



上。


蟹の軍隊はこの足拍子に合わせて動く

Black Ship

軍が「彼」のリズムに合わせて動く

ムァー

ムェー――蟹が動き始める

整然と左右に揺れ動く

横へ――横――へ

潮の流れのように

前後に

揺れ動く。

少しの休息

ムェーが止まった。

二度

シーッという音

それ以上ではない

それ以下でもない

ムァーという声が再び発せられる

ムェーという声が再び始まる。

知盛の足は止まらない

知盛の足は休まない。

Foreign girlの腕が標的だ

各動作で

火が付いた

火が燃えた

凍結

燃焼。

苦痛の川

旅が始まった

上腕から手首へ

手首から指へ

燃焼

冷却。

指に痛みがとどまる

ダムが造られた。

川が流れた

川が溢れた

ダムが決壊した

異常な痛み。

思い付く

咄嗟に

思い付く――

カウベル

汚れた

古い

年月を得た

落ち着く

カウベル。

手が届くだろうか。

魔法解けるだろうか。

蟹が体の上を這う

蟹が首を絞める。

感覚が無くなる

眠りの中で

深い

闇に包まれた

不吉な予感。

夢うつつ

ムァーという声

動き

波が揺れる

波がぶつかり合う

最も激しい嵐。

光はない

稲妻さえもない

落下

雷が

鳴っている

笑っている。

ベル

意識が戻るまでまだずっと先だ。

この夢見は

この夢は

異常だ

咄嗟の

瞬時の

考え。

錯覚――

目覚ましが鳴っている

目覚ましが泣いている

波が打つ

波が轟く

蟹が衝突する

知盛は笑っている

彼女の腕が……

彼女の腕が……

やっとベルに触れた。

ベルが落ちた――

壁――見つけた

永遠の音色

甘い音色――

Young

Cow

最初の二楽章が終わり

最後の音がした――

Boy

ついにベルは

床の上に落ち着いた。

とても力強い音

とても素晴らしい音

蟹は急いで退いてゆき

知盛は誇りに満ちた様子で

碇を口にくわえ

深く

深く

深く

闇へと

沈んだ。

太陽が彼女の顔を照らし

新鮮な、新しい

清々しい

気分になった。

苦痛からの解放

不幸からの解放――

良かった。

ベルが落ちて

横たわっているのを見た

古い

永遠の――彼女のベル。

ずっと奥の隅の

一番暗い所で

知盛が震えて

丸くなっていた――寒さで

大人しくなっていた――

もう二度と

悪さをしなかった。


Reformation


アメリカン・スフィンクス

オフィシャルサイト

www.americansphinx.com





Download this book for your ebook reader.
(Pages 1-51 show above.)